匂いの好き嫌いは学習効果
.: * 匂いの好き嫌いは学習効果 * :.


■匂いの好き嫌いは学習効果
味の場合は、ひとつひとつ味がそれぞれ生物学的な意義をもっています。
しかし匂いの場合は、それぞれの役割は明確ではないのです。
ヒトにおける匂いの役割を考える前に、動物における匂いの役割を考えてみましょう。

匂いのなかで生物学的な意義がもっともはっきりしているのは、フェロモンです。
フェロモンには生殖行動の促進、仲間どうしのコミュニケーション、集団行動の調節などのはっきりとした生物学的な役割があります。
フェロモンだけでなく、動物はいろいろな匂いを生きるための手段として活用しています。
ミツバチのように花を探し求める昆虫は、花の匂いに誘われ、腐ったものが好きなハエは腐敗物の匂いに誘われています。
野生動物は、餌を探したり、外敵の存在を感じたり、自分の所有範囲を確保するために嗅覚を利用しているのです。

それでは、ヒトの場合はどうでしょうか?
ヒトは視覚の発達している動物であり、外からの情報は、主として視覚によって得ています。
そういう意味では、ヒトの場合は、嗅覚が生死を左右するほどの役割をはたしているわけではありません。
だからといって、ヒトにとって嗅覚が重要でないということでもありません。
豊かな人間生活を送るためには、嗅覚はなくてはならない感覚です。
その上、匂いの好き嫌いは、民族により異なります。
例えば、多くの日本人は、海苔、納豆、線香、ヒノキなどの匂いを好ましいと感じますが、欧米人にはこうした匂いが嫌いな人が多くいます。
日本人と欧米人の間で、嗅覚の機能に特に違いはないので、匂いの好き嫌いは生活の違いから来ることになります。

これに対して、花の匂いは世界中のすべての国に好まれます。
なぜ花の匂いは世界共通に好かれるのでしょうか?
風の力によって受粉するマツやスギのような植物には匂いはありませんが、昆虫に受粉を助けてもらう植物の花は、匂いまたは色で昆虫を引きつけています。
大型で鮮やかな色をもった花は、色で昆虫を引きつけるので弱い匂いしかだしませんが、薄い色の花は強い匂いをだすことで昆虫を引きつけます。
このように花の匂いは、昆虫にとっては誘惑的な匂いですが、ヒトにとっていい匂いであるという理由にはなりません。
ちなみに、イヌやサルは花の匂いが好きではないそうです。
また、赤ちゃんにバラの花の匂いと糞臭をかがせても、バラの匂いに特別の関心を示しませんし、糞臭を特に嫌がりません。
つまり、最初から花の匂いが好きという訳ではなく、学習効果によって匂いの好き嫌いがででくると考えたほうがいいのかもしれません。